第59回日曜講習会報告書

2019年2月3日(日)、日本医科大学 教育棟2F講義室を会場として、関東神経生理検査技術研究会主催 第59回日曜講習会を開催いたしました。
以下に各先生方のご講演内容を簡単にまとめ報告いたします。

第59回日曜講習会報告書

1.多様な視点で理解する脳波賦活法 vol.1 ‐開閉眼&閃光刺激‐

北里大学病院 臨床検査部 小野澤 裕也 先生

北里大学病院臨床検査部の小野澤裕也先生には、このたび出版された電子書籍『脳波賦活法』の出版記念講演として、「多様な視点で理解する脳波賦活法」というテーマでご講演いただきました。今後数回に分けてお話いただく中の今回はvol.1で、賦活法の中から開閉眼と閃光刺激について、症例を交えながら大変分かりやすく解説していただきました。

脳波賦活法の目的は、安静状態では明らかでない異常脳波や生理的変化の観察を行うことです。開閉眼と閃光刺激において確認すべき事項、賦活時に出現する特徴的な所見など、お話いただいた内容を以下に示します。

―開閉眼― <施行時のポイント>

  • 開眼時は注視位置を事前に示しておくとよい
  • 小児の場合、軽く目を押さえてもらう等、母親(ご家族)に協力してもらうとよい
  • 指示の入らない患者の場合、自然に行っている開閉眼部分を見る
  • 眠気が強い場合は、患者と会話しながら行ったり、短い間隔で繰り返したりするなどして、確実に覚醒させる。(眠気と異常の鑑別ができるのは記録中のみ!)
  • 基礎波が徐波の場合は、周波数と振幅の変化に注目する。

<確認すべきポイント>

  • 背景活動の変化

    意識水準の評価、協力性の評価、年齢による変化、Squeak現象(正常)、Bancaud現象(異常)

  • 特殊波形の確認

    μ律動(μ律動であることを記録中に確定させる。抑制された後はすぐに戻らないこともある)

    λ波(陽性波のため、双極導出で離れ合う。部屋を真っ暗にするなどして抑制を確認)

  • 異常脳波の誘発・抑制

    局在性突発波の変化(開眼でも変わらないことが多い)

    広汎性突発波の変化(開眼で抑制傾向)

    φ律動(diffuse spike&waveが出る可能性が高い→検査の方向性を決める手助けとなる)

―閃光刺激― <確認すべきポイント>

  • 光駆動反応

    刺激周波数と反応波形の関係、年齢による変化

  • 光突発性応答

    有効な刺激周波数(再現性を確認)、年齢における変化)

  • 突発性応答と光筋原性応答の鑑別

    刺激中断で継続するか、消失するか

開閉眼と閃光刺激について、検査時にどういった点に着目し、何を確認しなければならないのか、賦活を行う際に必要な知識を再確認できた講義でした。

2.PSG検査における脳波解析の基礎

スリープクリニック調布 検査科  秋山 秀和 先生

スリープクリニック調布の秋山秀和先生には、「PSG検査における脳波解析の基礎」というテーマで、AASMの最新のスコアリングマニュアルに即した形で睡眠段階判定や脳波解析について解説していただきました。

電極装着部位から各判定の定義について詳しくお話いただきましたが、その中でも特に注意すべき点、ポイントを以下に挙げます。

  • 通常脳波と異なり、PSGは反対基準導出である
  • 体動があるからといってStageWとは限らない
     粗体動の判定
    • α律動が少しでも認められればStageW
    • α律動が識別できなくても前後どちらかがStageWであればStageW
    • α律動が識別できず、前後が睡眠であれば直後の睡眠段階と同じ判定
  • 睡眠段階判定で迷ったらそのエポックはひとまずとばして先に進む
  • κ波などの出現に注意(基準電極が活性化して覚醒と誤る可能性あり)
  • ABのような前頭部徐波の出現に注意(StageN3と間違えない)
  • 14&6Hz positive spikesの出現に注意(spindleと間違えない、StageRで出やすい)
  • 装着時に患者さんと話すことで得られる情報もある

説明文で読むと分かりにくい判定ルールですが、波形や具体例を供覧しながら実践的に解説していただき、解釈や判定について理解を深めることができました。

3.ミオクローヌス ‐概念と検査法‐

慶應義塾大学病院 臨床検査科 神経機能検査室 室長
武井 茂樹 先生

慶應義塾大学病院の武井茂樹先生には、「ミオクローヌス-概念と検査法-」というテーマでご講演いただきました。

ミオクローヌスの定義から検査法についてまで、日頃なかなか詳しく勉強する機会のない分野を大変分かりやすく解説していただきました。

ミオクローヌスとは、突然瞬間的に起こる電撃的な不随意運動で、持続時間は500ms以内と定義されています。陽性ミオクローヌスは筋収縮、陰性ミオクローヌスは筋収縮の中断を意味し、肝性脳症などで見られる羽ばたき振戦は病的陰性ミオクローヌスの一例といえます。

推定発生源により皮質性や脳幹、脊髄性などに分類されますが、今回は皮質性ミオクローヌスを中心にお話ししていただきました。

皮質性ミオクローヌスの検査には、主に脳波(皮質性ミオクローヌスの診断に必須)、表面筋電図、SEPなどがあります。脳波のパターンとしては大きく3つに分けられ、突発性異常(てんかん性)、CJDやSSPEなどのPSD(非てんかん性)、代謝性脳症などの三相波(非てんかん性)です。

筋電図では作動筋と拮抗筋を同時の記録することが必要で、ミオクローヌスではこれらが同期して発火、収縮します。脳波と筋電図の同時記録が望ましく、上肢の皮質性ミオクローヌスの場合、脳波変化が筋電図変化に10-30ms先行し、JLBA法により筋電図に先行する脳波成分を証明することも可能です。

武井先生は講義の最後に「ミオクローヌスを理解する者は、神経生理学を制する」という言葉でまとめられました。ミオクローヌスを生じる病態には様々な疾患が含まれ、これを理解するためには、脳波、筋電図、誘発電位の知識に加え、脳幹・皮質・脊髄の構造の知識などが必要となります。神経生理の知識を幅広く必要とするミオクローヌスを理解することができれば、神経生理学を網羅できる、今回のお話を聞きその奥深さを感じることができました。

4.【特別講演】小児の長時間ビデオ脳波検査

東京女子医科大学 名誉教授
TMGあさか医療センター てんかんセンター顧問
小国 弘量  先生

東京女子医科大学名誉教授および、TMGあさか医療センター顧問の小国弘量先生には、特別講演として「小児の長時間ビデオ脳波検査」というテーマでご講演いただきました。

実際のビデオと脳波波形を提示しながら、小児期における様々な症例について詳しく解説していただきました。

以下のようなてんかん発作との鑑別が必要となる疾患において、長時間ビデオ脳波は有用となります。

* 乳幼児期に認められる不随意運動発作

  • 早期乳児強直反射性発作
  • 早期乳児良性ミオクローヌス
  • 身震い発作

    →これらは脳波では非発作時も発作時も異常を認めない。予後良好。

    →点頭てんかん(West症候群)におけるてんかん性スパスムスとの鑑別が重要(West症候群は早期治療が重要であるため)

* 小児の失立転倒発作

てんかん性発作(ミオクロニー発作、てんかん性スパスムス、脱力発作)と非てんかん性発作(失神、カタプレキシー)との鑑別

* 重度脳障害児に認められやすい非てんかん性不随意運動発作

異常に亢進した驚愕反射はてんかん発作との鑑別が困難。通常脳波での鑑別は困難なため、長時間ビデオ・ポリグラフ検査が有用。

ビデオ・脳波(ポリグラフ)同時記録は、発作症状を視覚的に分析可能とし、非てんかん発作との鑑別、発作型の同定、さらにてんかん症候群分類を行う手助けとなります。数多くの貴重な症例について、実際のビデオと脳波波形を供覧しながら解説していただき、大変有意義な時間となりました。

第30回関東神経生理検査技術研究会総会

2019年2月3日(日)15:00pmより、第30回関東神経生理検査技術研究会 総会を開催し、すべての議案を過不足なくご承認いただきました。
2019年度もどうぞよろしくお願いします。

第59回日曜講習会報告書

むすびにかえて

2019年2月3日(日)東京。
暖かい晴天の1日でした。
次回は第60回日曜講習会です。2019年7月7日(日)開催予定です。
会員の皆様に役立つであろう基礎から臨床まで幅広い企画を考えておりますので、是非、奮ってご参加下さい。

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